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詐欺罪とは?詳細な解説

生活していると、誇大広告だったり、品質表示の偽装だったり、詐欺的行為を見かけることが多々あります。

よく人をだます=詐欺と勘違いしている人がいますが、人をだますだけで刑法の詐欺罪が成立するわけではありません。

また、詐欺的行為刑法上の詐欺は明確に違います。

刑法上の詐欺罪が適用できる範囲が狭いため、特商法だったり出資法だったり、金商法だったりで詐欺的行為を取り締まったりしているのです。

そこで、今日は刑法上の詐欺罪について改めて勉強しましょう。

 

そもそも、詐欺罪とは?

詐欺罪は、刑法第246条で規定されています。

刑法第246条
第1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
第2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、 又は他人にこれを得させた者も、前項と同様とする。

条文はたったこれだけです。

詐欺罪の主体

特に制限はありません。

詐欺罪の客体

詐欺罪の客体は他人の財物及び他人の財産上の利益です。

刑法では、第246条第1項で他人の財物を、同条第2項で他人の財産上の利益を保護しています。

財物とは

詳しくは『刑法犯における財物の概念』を参照してください。

自分の財物であっても、場合によっては「他人の財物」とみなされることもあります。

たとえば、自分の財物であっても他人が占有している場合公務所の命令によって他人が看守している場合などは、自分の財物であったとしても(財物の所有権が自分にあったとしても)「他人の財物」とみなされます。

なお、窃盗罪や強盗罪の場合の"財物"は動産に限られていますが、詐欺罪の場合には不動産も"財物"に含まれます。

財産上の利益

財産上の利益とは、"財物"以外の財産上の利益のことをいいます(大判M43.5.31)。

利益というのは、計数的に算出できるものに限られません。

また、債権の取得といった積極的利益だけでなく、債務の免除等の消極的な利益であっても"財産上の利益"になります(大判M42.12.13)。

ここでいう利益というのは、一時的なものでも永久的なものでもよいとされています(大判T3.2.17)。

判例で"財産上の利益"として認めれた主なものとしては、債権の取得(大判T14.3.20)、債務の免除(大判M42.12.13)、債務履行の延期(最決S34.3. 12)などがあります。

不法の利益

"不法の利益"の"不法"とは、利益を取得する手段が不法であることを意味します。

たとえば、「覚せい剤の密売で得た利益」のように利益そのものが不法である必要
はありません(大判S13.10.4)。

不法原因給付

民法第708条では次の通り規定されています。

民法第708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

このように、不法の原因に基づいて給付した者は、給付した物等の返還請求はできません。

不法の原因とは、原因行為が公序良俗に反する事項を目的とする場合のことをいいます。

民法上の不法原因給付に当たるとされた事例としては、密航資金の貸与(大判T5.6.1)、賭博による負金債務の負担最判S46.4.9)などがあります。

 

通説・判例被欺罔者が交付した財物が不法原因給付物であっても詐欺罪の成立を認めていいます

たとえば

・紙幣を偽造する資金を騙取した場合(大判M43.5.23)
・闇米を買うと欺いてその代金を騙取した場合(最判S25.12.5)
には、それぞれ詐欺罪の成立を認めています。

民法第708条の但し書きに書かれているとおり、不法な原因が受益者にのみ存在する場合には交付した財物の返還請求をすることはできます。
つまり、純然たる詐欺の被害者である場合は、犯人に対して交付した財物の返還請求をすることができるということです。

行為

詐欺罪の行為とは、他人を欺いて財物又は財産上不法の利益を自己若しくは第三者に交付させることです。

 
 
 

詐欺罪が成立するためには、以下の三つの要件が満たされていることが必要です。

1 欺岡(ぎもう)行為に基づいて、被欺問者が錯誤に陥ること
2 被欺罔者が錯誤に基づいて財産的処分行為をすること
3 財物又は財産上不法の利益を得ること

それに加えて、各構成要素の相互間に定型的因果関係が存在していなければなりません。

欺罔

刑法第246条の条文中の「欺く」というのは、欺罔することを指します。

欺罔というのは、相手方に客観的事実と一致しない意思、つまり錯誤を生じさせる行為のことです。

欺罔行為というのは、一般人を錯誤に陥らせる可能性のある行為であればよく、誰もがだまされる程の行為までは必要ありません。

また、欺罔の手段や方法には何の制限もありませんので、言語だけでなく動作でも構いませんし、直接的であっても間接的であっても構いませんし、作為による欺罔であっても不作為による欺罔でも構いません。

判例によると、相手が錯誤に陥っている場合に、これを持続助長させる行為も欺罔に当たるとされています(大判決S3.7.10)。

欺罔の内容

欺罔とは、相手方が財産的処分行為を行うにあたっての判断の基礎となるような事実を偽るものでなければなりません。

事実を偽る場合には、現在又は過去の事実だけでなく、将来の事実に関する事項であっても欺罔行為になります(大判T6.12.24)。

例えば、会社の業績が悪化しているにもかかわらずに、虚偽の決算報告書を作成して融資を受ける行為なども「現在や過去の事実を偽る」と言えます。
また、絶対に返済する気がないにもかかわらず「1年後には2倍にして返すから!」なんて言って借金する行為は「将来の事実を偽る」ことになると考えられています。
絶対的な基準ではないですが「告知内容が真実でないことを相手方が知ったならば、財物の交付又は利益の供与をしなかったであろう」と考えられる場合には欺罔に当たると考えてもいいのではないかと思います。
欺罔の程度

どの程度の欺罔行為が行われれば詐欺罪に該当するかということについて、判例では「欺罔行為の際の具体的な事情を前提として、一般人を錯誤に陥らせる可能性のある行為であれば足りる(大判S3.7.10)と判示しています。

事実の不告知

取引や契約において一定の告知義務が存在する場合、たとえば保険契約における告知義務を守らなかった場合などには、事実の不告知(不作為)が欺罔行為にあたると判断されます。

直接的に法令の規定で認められている場合(保険契約における告知義務など)のほかに、判例では、広く契約上・慣習上・条埋上認められる場合(大判S8.5.4)、信義誠実を旨とする取引上の必要から認められる場合(大判S4.3.7)についても不作為による欺罔を認めています。

【告知義務の有無の判断要素】
当該事実の不告知が、取引において通常行われるものとして容認される程度を超えるものであるかどうか(取引における信義誠実の原則から見て社会的相当性の枠を超えるものかどうか)
【不作為による欺罔を肯定した判例
〇夫が被保険者たる妻の生命に関する重大な疾病について黙秘して生命保険契約を締結した上、同疾病によって死亡した妻の生命保険金を保険会社から取得した場合(大判S7.2.19)【取引の目的物の属性の不告知】
生活保護の実施機関が被保険者の収入状態を過少に認識しているのに乗じて、生活保護法第61条の届出義務に違反して、あえて収入の届出をしないで不正な額の保護費を受給した場合(東京地判S47.8.4)【取引当事者の属性の不告知】
【不作為による欺罔を否定した判例
●事業不振の結果、使用人を解雇して事業を縮小し、また、約束手形が数回不渡りとなるなど自己の信用状態が悪化しているのに、その事実を告げずにセメントを買い掛けした場合(福岡高判S27.3.20)
●土地の売主が、買主に対して当該土地に対する法規制の有無や内容を告知しなかった場合(東京高判H元.3.14)
商略的言辞

商略的言辞とは、商売上の策略・商売の駆け引きを行う上での文言のことです。

日常的に行われている商取引においては、販売業者等が誇大な形容表現を用いて商品や業務を吹聴することがあります。

「地域最安値!」といった表現や「この価格で買えるのは今だけ!」というような表現は日常的に見るようなものであり、この程度の表現であれば必ずしも違法になるというわけではないと判例(東京高判S30.7.20)で判示されています。

しかし、この判決では同時に、取引上においても商品又は業務に関する具体的事実を虚構し、人に物品の価値判断を誤らせて買受の決意をさせる行為はそもそも違法な欺罔手段であるというべきであって、これを違法性のない商略的言辞と同一視することはできないとも言及しています。

また、別の判例(最決S34.9.28)では、例え価格相当の商品を提供していたとしても、事実を告知していれば相手方が金員を交付しなかったであろう場合において、ことさら商品の効能などについて真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させたうえで金員の交付を受けた場合は詐欺罪が成立するとしています。

一方、宣伝の内容に真実とは異なる面があった場合であっても、その程度が一般的・抽象的なものであって、商取引上における駆け引きとして許され得る商略的言辞に属するものであれば、詐欺罪における欺罔行為(取引上重要な具体的事実の虚構)というには不十分であると考えられています。

欺罔の相手方(被欺岡者)

被欺罔者は、必ずしも財産上の被害者と同じである必要はありません(最判
S24.2.22)。

「スーパーの店員に対して欺罔行為をおこなって商品を騙し取ったとしても、被害者はスーパーの店員ではなく店舗になる」と考えると、しっくりくるかもしれません。
しかし、被欺罔者は財物又は財産上の利益について処分行為をなし得る地位や権限を有する物でなければなりません。(大判T6.3.8)。
つまり「スーパーの店員と思っていた人物に対して欺罔行為をして財物を騙取したけど、実は被欺罔者はそのスーパーとは何の関係もない人だったような場合」には詐欺罪は成立しないということです。(この場合は窃盗罪等の成立を検討することになる)
訴訟詐欺

裁判において、証人に偽証させたり、虚偽の証拠を提出するなどして裁判所を欺き、勝訴判決を得ることで敗訴者から財物を交付させる場合(いわゆる訴訟詐欺の場合)には、判例では裁判所を被欺罔者とする詐欺罪の成立を認めています(大判M44.5.5)。

広告詐欺

欺罔行為は、必ず特定の人に向けられていなければならないというわけではありません。

いわゆる広告詐欺のように、欺罔行為が不特定の人に向けられるものであっても詐欺罪における欺罔行為になります(大判M38.4.21)。

欺罔行為者以外の者が財物の交付を受ける場合

詐欺罪において、欺罔行為者と財物の交付を受ける者が一致するのが大半です。

しかし、欺罔行為者と財物の交付を受ける者が一致しないからといって、詐欺罪の成立が否定されるわけではありません。

つまり、欺罔行為者以外の第三者に財物を交付させた場合にも詐欺罪は成立します(最判S26.12.14)。

ただし、この場合にも第三者情を知らない欺罔行為者の道具的立場の者だったり、欺罔行為者の代埋人的立場の者であるなど欺罔行為者と第三者との間に特別な関係が存在していることが必要です。

欺罔行為者と全く無関係な第三者に財物を交付させた場合には、欺罔行為者による不法領得の意思が認められないので詐欺罪は成立しません(大判T5.9.28)。

 

錯誤

一般的に、錯誤とは観念と真実との不一致を指します。

ただ、欺罔行為によって惹起される錯誤は、財産的処分行為の動機付けとなれば十分です。

錯誤の原因は欺罔行為だけに限られません。

錯誤の原因としては被欺罔者の不注意、無知、過失等の事情も認められています(大判T14.4.7)。

財産的処分行為

財産的処分行為については、刑法第246条の条文では全く触れられていません。

しかし、財産的処分行為は条文に書かれざる構成要件要素として詐欺罪の成立に欠
かすことはできません。

財産的処分行為に該当するか否かは、主観的要件客観的要件の二つの要件のどちらもを満たしているかどうかで判断されます。

 

主観的要件というのは、被欺罔者が処分意思を有していることです。

 
客観的要件というのは、財産的処分行為自体が処分意思に支配された行為であることです。
 
コンビニエンスストアでは、自分で注ぐタイプのコーヒーが販売されていますよね。
レギュラー(R)サイズの容器を購入しているにもかかわらず、機械を操作するときにレギュラーよりも高額なラージ(L)サイズのコーヒーを注ぐ人もいます。
結論から言うと、このような場合には窃盗罪が成立します。
 
詐欺罪の成立に欠かせないのが、財産的処分行為なのですが、被欺罔者自身が財産的処分行為をしなければ詐欺罪は成立しないというのが、詐欺罪の難しいところです。
たとえば、「向こうで別の客が呼んでいる」と嘘を言って店員の注意を逸らせたうえで商品を取るような行為は、被欺罔者による財産的処分行為が認められないから窃盗罪に当たります。
被欺罔者、つまり騙された人による財産的処分行為が詐欺罪の成立には欠かせないということです。
そのため、コンビニエンスストアのコーヒーの機械を不正に操作して、Rサイズの料金しか払っていないにもかかわらずLサイズの量のコーヒーを受け取る行為は詐欺的手段を用いた窃盗罪となるんです。
しかし、機械が相手だったら詐欺罪が成立しないかというと、そういうわけではありません。
たとえば、セルフ式のガソリンスタンドで偽造したクレジットカードを給油機に挿入してガソリンを不正に給油した場合なんかは詐欺罪に当たります。
 
セルフ式のガソリンスタンドというのは、スタンドの従業員が事務室内に設置している端末を操作して給油を許可することで客の給油が可能となる仕組みになっています。
このように、機械を通してでも"人(被欺罔者)"の介在が認められる場合には詐欺罪に当たることとなります。

以上の説明のように、財物の移転が被欺罔者の行為によってではなく欺罔者自身の行為によって行われている場合には、客観的要件(処分意思に支配された行為という要件)を満たしませんので詐欺罪ではなく窃盗罪が成立します。

また、財産的処分行為をすることができない精神障害者などを欺罔して財物を交付させた場合にも詐欺罪は成立せず、窃盗罪や準詐欺罪の成立を検討することになります。

財物又は財産上不法の利益の取得

財物の取得

財物の取得とは、欺罔行為によって錯誤に陥っている被害者の財産的処分行為(財物の交付)に基づいて財物の占有を取得することをいいます。

財産上不法の利益の取得

財産上不法の利益の取得は、財物の取得と同様に、欺罔行為による相手方の錯誤に基づいて行われる財産的処分行為によって行われることが必要です(最判S30.4.8)。

犯意

詐欺罪における犯意には、他人を欺罔して錯誤に陥らせ、その錯誤に基づく処分行為によって財物等を取得することの認識・認容が必要です。

この認識・認容は未必的なものであっても構いません。

なお、詐欺罪の成立には犯意のほかに不法領得の意思も必要です(大判T11.12.15)。

詐欺罪の着手時期

詐欺罪の着手時期は、犯人が欺罔行為を開始した時点です。

欺罔行為を開始しただけで詐欺罪の着手と認められますので、その欺罔行為によって相手方が錯誤に陥ったかどうかは問いません。

【保険金詐欺の着手時期について】
保険金詐欺については、当該保険に加入した時点ではなく、保険会社に保険金の支払い請求をした時点が着手時期となります(大判S7.6.15)。

詐欺罪の既遂時期

詐欺罪は、財物の占有あるいは財産上の利益が犯人又は第三者に移転した時点で既遂に達します。

しかし、各構成要件要素間の定型的因果関係が欠けるときは未遂となります。

 

たとえば、詐欺の犯人が老婆から現金をだまし取ろうと欺罔行為を開始したとします。

その老婆は犯人の嘘を見抜いたことで錯誤に陥らなかったのですが、犯人が可哀そうだから犯人にお金を渡してしまいました。
このような場合では欺罔による錯誤⇒財産的処分行為という定型的因果関係が切れていると判断されるから、詐欺罪の既遂は成立せずに未遂罪が成立することとなります。

よく、騙された人が「最初っから怪しいと思ってたんだよね~」と言い訳をしたりするのですが、その場合は厳密にいえば詐欺未遂にしかなりませんし、詐欺師にお金を寄付してやっただけに過ぎないともいえます。

事案の態様による既遂時期

不動産の騙取

客体が不動産の場合は、観念的な所有権の移転ではなく所有権移転登記や実際の土地の引渡しなどによって既遂とります(大判T11.12.15)。

有価証券の騙取

手形や小切手などの有価証券が被害品である場合、殆どのケースでは行為者の最終的な目的は現金の取得であると思います。

 

有価証券を騙取した時点では現金そのものを受け取ったわけではありませんので、欺罔者の目的は達成されていないわけですが、判例では有価証券そのものの交付を受けた時点で詐欺罪は既遂となるとされています(大判S16.8.20)。

預金口座を利用した金銭の騙取

金銭を直後受け取る代わり に預金口座に振り込ませる場合には, 犯人の口座に現金の振込みがなされた時点で詐欺罪が既遂となります(大判S2.3.15)。

既遂・未遂の判断における財産上の損害の要否

詐欺罪が成立するか(既遂になるか)を判断するために財産上の損害が必要か否かという点については、財産上の損害の発生は必要ない(大判T2.11.25)という見解と財産上の損害の発生は必要ではあるが、財物の交付自体が財産上の損害に当たる(大判S17.4.7)という二つの見解があります。

通説・判例は、犯人が価格相当額の対価を提供している場合だけでなく、価格相当額以上の対価を提供している場合であっても詐欺罪の成立を認めています。

詐欺罪の被害額

欺罔者が要求した金額と、被欺罔者が交付した額が異なる場合

判例(大判S10.5.24)によれば、欺罔行為によって相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づく処分行為によってその金額が交付され、欺罔者がこれを受領したという関係が認められれば、現実の交付額が被害額となるとされています。

欺罔者から被欺罔者に対して対価が提供された場合

欺罔者から被欺罔者に対して対価が提供された場合の被害額は、被欺罔者が交付した財物の価格から対価を差し引いた差額ではありません。

この場合の被害額は、被欺罔者が交付した財物の額そのものが被害額となります(大判T4.6.1)。

権利行使と詐欺罪

法律上は他人から財物等を取得する権利を有する者が、権利実行の手段として財物等を騙取した場合は、恐喝罪に関する最高裁判例最判S30.10.14)に準じて詐欺罪が成立するか否かを判断します。

この恐喝罪に関する最高裁判例では、「債権取り立てのために執った手段が権利行使の方法として社会通念上一般に許容すべきものと認められる程度を逸脱した恐喝手段である場合には、債権額のいかんにかかわらず交付を受けた金額の全額につき恐喝罪が成立する」と判示されています。

このことから、権利行使のために執った欺罔手段が社会通念上一般に容認すべき程度を超えた場合には、権利行使の範囲の内外にかかわらず、騙取した財物等の全額について詐欺罪が成立すると考えられています。

罪数と他罪との関係

罪数

一個の欺罔行為で相手方に財物を交付させ、かつ相手方から財産上不法な利益を取得した場合

一つの欺罔行為で相手方に財物を交付させ(1項詐欺の既遂)、その上で相手方から財産上不法な利益を得た場合(2項詐欺の既遂)には、二つの行為を包括して一個の詐欺罪が成立します。

一個の欺罔行為によって数人を欺罔し、財物を騙取した場合

欺罔行為自体は一個ですが、財産の占有を侵害された人は複数に及びます。

ですので、このような場合の詐欺罪は観念的競合となります。(包括一罪とする見解もあります)

数個の欺罔行為によって同一人から財物を騙取した場合

単一の犯意で遂行されたものと認められる限りは一個の詐欺罪が成立するにとどまります。

詐欺罪と他罪との関係

放火罪との関係

保険金を騙取する目的で放火して保険金を騙取した場合は、詐欺罪と放火罪(現住建造物等放火罪または非現住建造物等放火罪)の両罪が成立し、併合罪となります。(大判S5.12.12)。

偽造(変造)通貨行使罪との関係

偽造(変造)の貨幣 ・紙幣 ・銀行券を行使して相手方から財物を騙取した場合や、財産上不法の利益を得た場合には、詐欺罪は行使罪に吸収されます(大判M43.6.30)。

 
文書偽造(変造)罪との関係

文書偽造(変造)・同行使罪と本罪は牽連犯となります(大判M42.1.22)。

しかし、詐欺罪の証拠隠滅を図るために文書を偽造(変造)してこれを行使した場合には、文書偽造(変造)・同行使罪と詐欺罪は併合罪となります。
詐欺罪の証拠隠滅を図る目的で文書を偽造(変造)することは、本件の詐欺とは別個の行為とみなされるということです。
有価証券偽造罪との関係

有価証券偽造・同行使と詐欺罪は牽連犯の関係になります。(大判T3.10.19)。

また、有価証券に虚偽の内容を記入し、その有価証券を行使して詐欺罪を犯した場合も有価証券虚偽記入・同行使罪と詐欺罪は牽連犯となります(大判T13.10.10)。

 
窃盗罪との関係

窃盗罪で得た盗品を処分する行為が詐欺罪の構成要件に該当する場合には、詐欺罪によって新たな法益を侵害したことになります。

ですので、その場合には窃盗罪の不可罰的事後行為に当たらず、詐欺罪が成立して窃盗罪との併合罪となります。

たとえば、窃取した郵便預金通帳を利用して郵便局員を欺罔し、貯金の払戻しを受けた場合最判S25.2.24)や、タクシー乗車券を窃取した後で同タクシー乗車券を使用してタクシーに乗車した場合(秋田地判S59.4.13)には、窃盗罪のほかに詐欺罪の成立を認めています。

背任罪との関係

他人のためにその事務を処理する者が,本人(事務の委託者)を欺罔して財物又は財産上不法の利益を取得した場合は、詐欺罪のみが成立します(最判S28.5.8)。

 
恐喝罪との関係
欺罔及び恐喝の両方の手段が併用された場合

欺罔による錯誤恐喝による畏怖の両方が原因となって財物が交付された場合は、詐欺罪と恐喝罪の観念的競合となります(大判S5.5.17)。

脅迫の中に虚構の事実が含まれていた場合

財物を交付するに至った相手方の決意が畏怖に基づく場合は、脅迫の中に虚構の事実が含まれていたとしても恐喝罪のみが成立します(大判S5.7.10)。

横領罪との関係

欺罔手段を用いていたとしても、自己の占有する他人の財物を横領した場合には横領罪のみが成立します(大判M43.2.7)。

その他の参考事項

未遂処罰規定

刑法第250条において、詐欺罪の未遂は処罰されることが明記されています。

親族相盗例の適用

刑法第251条の規定により、親族相盗例(親族間の犯罪に関する特例、刑法第244条)の規定が準用されます。

被害品(交付した財物)の返還請求

詐欺罪で財物を交付した場合、犯人や悪意取得者に対しては瑕疵ある意思表示として財物の交付の取り消しを主張することができます。

しかし、詐欺罪における財物の交付は一応自らの意思で行っているものですので、原則として、財物の交付の意思を取り消さない限りは被害者の所有権は保護されません。

ですので、被害者は犯人や悪意取得者に対しては財物の交付の意思を取り消す旨の意思表示ができますが、善意取得者に対しては同様の主張をすることができません。

民法第192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
民法第193条
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
民法第194条
占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。

まとめ

世の中には「簡単に稼げる!」って言う話が溢れていて、そういう謳い文句で情報商材が売られたりしています。

そういう怪しげな情報教材を購入して、稼ぐことが出来なかったから「詐欺だ!」と声高に言う人を良く見かけますが、「簡単かどうか」と判断するのは実践してみた個人の感想による部分が大きいので、詐欺罪の成立を立証するにはかなりハードルが高いです。

そもそも、仮に詐欺罪に該当して犯人が捕まったとしてもお金は戻ってきません

警察は犯人を捕まえてくれても、お金を取り戻してくれることはありません。

どんなに有能な弁護士でも、お金を持っていない犯人からお金を取り上げることはできません。

詐欺師に騙し取られたお金を取り戻すことは、ほぼほぼ不可能なのです。

詐欺師にお金を渡さないようにすることこそが、唯一かつ絶対的な防衛手段に他なりません。

正しい知識を身につけて、大切なお金を詐欺師から守りましょう。